返品ルールを基準に小売事業者を選ぶ消費者は、10年前には存在しませんでした。eコマースの登場により、消費者はストレスのない返品を期待するようになり、スムーズな返品サービスの提供は小売事業者がビジネスを行う上で基本的なポイントになっています。

過去10年で4倍になったeコマース市場

過去10年間でオンラインショッピングは爆発的な成長を遂げました。2010年、eコマースは米国の全小売売上高のわずか4.2%でしたが、2019年には小売売上高の16%以上を占め、サイバーマンデーには94億ドルの販売記録を打ち立てました。この10年でEC市場はほぼ4倍になり、ご存じのようにショッピング体験を完全に変えました。

2016-2019年のグローバルのEコマース売上高
2016-2019年におけるグローバルのEC売上高(DigitalCommerce360「Global ecommerce sales to reach nearly $3.46 trillion in 2019」より編集部が作成)

あまり知られていない事実ですが、同時にeコマースは小売事業者が抱えるバックエンドの混乱を引き起こしました。消費者は実物を見ずに商品を購入するため、試着をしたり、商品が実際にどのように見え、どのように感じられるのかを事前に知ることができません。その結果、eコマースの返品率は実店舗の3倍になるなど、eコマースが台頭するにつれ、返品の量は増え続けました。

ホリデーシーズンには、1000億ドル以上が返品される

2019年のホリデーシーズンも例外ではありませんでした。年間の返品の約4分の1は、感謝祭(11月の第4木曜日)から1月末までの期間に発生します。この間に、2018年のシーズン比で6%増となる1000億ドル以上の商品が返品されたとた言われています。UPSは2020年の返品ピーク時には、1日あたり過去最高となる190万件の返品が発生すると推定しており、これは2019年比で26%増えることになります。

これは大きな問題です。2020年はこれまでになく、2019年10~12月期(第4四半期)の決算で返品の脅威を解決し、軽減するために投資している小売事業者が目につきました。ホリデーシーズンの返品は、小売事業者の考え方の変化と、返品がもたらす金銭的な圧迫だけでなく、環境への脅威にも重点を置いたことから、ティッピングポイントに達したのです。

返品を競争上の優位性と捉える

10年前、返品は小売事業の知られざる問題でした。返品によって棚に戻される商品は50%未満であること、何十億ポンド(※1ポンドは453グラム)という膨大な埋め立て廃棄物が発生していることを知っている人はほとんどいませんでした。さらに、わかりやすい返品ルールを提供しているからといって、消費者を獲得できることはありませんでした。

過去10年間、特に2019年に多くの小売事業者は返品を防止したり、抑制したりすることを考えるのではなく、顧客のロイヤルティを獲得する方法として返品を受け入れる考えにシフトしてきました。eコマースの時代には、ストレスのない返品はビジネスを行う上での重要なポイントとなっているからです。消費者は手間のかからない返品サービスを期待しており、2020年はさまざまな小売事業者がこれまで以上に多くの選択肢を用意して対応しました。

返品された在庫を自社のECサイトで販売する「Optoro」の調査によると、4 分の1以上の消費者が、2019年のホリデーシーズンの購買決定の動機となったのは無料返品であると回答しています。業界を代表する動きとして、Amazonは数千点に及ぶ商品に無料返品ルールを拡大、他の小売事業者も追随するようになりました。同時にTarget(米国の大手ディスカウントチェーン)は、多くの商品の返品期限を90日から1年に延長し、Costcoの自由度の高い返品ルールに対抗しました。

返品ルールの変更以外にも、返品の利便性を高めるために、小売事業者はeコマースで購入した商品を返品できる物理的な場所を提供するといった投資を行いました。Kohl's(米国の百貨店チェーン)は一部店舗で展開していたAmazonの返品商品の受付サービスを拡大、全店舗でAmazonの返品を受け付けるようにしました。

また、UPSとFedExは、自社の店舗内だけでなく、Dollar General(米国のバラエティーチェーン)やWalgreen(米国の薬局チェーン)内にも、返品を受け付ける場所のネットワークを拡大しました。

返品が環境に与えるダメージを考えよう

小売業やファッション業界全体で、2019年はSDGs(持続可能な開発目標)が話題を呼びました。返品も例外ではありません。3,460万ドル以上の売れ残り商品を燃やしたバーバリーのような小売事業者は、過去に返品や不良在庫、売れ残り在庫を無駄にしていたため、消費者から大きな反発を受けました。2020年は、返品による廃棄物に注目が集まっているため、小売事業者は環境に優しいことをアピールして対応しています。

Rothy's(素材にこだわるフラットシューズのD2C)、Toad&Co(米国のオーガニックコットンのアパレル企業)のように、リサイクルに対応した返品可能なパッケージを提供するブランドが増えました。さらに、UPSの返品場所の拡大、実店舗での返品オプションにより、梱包や郵送での返品輸送にかかる二酸化炭素排出量が削減されています。

さらに2019年、The RealReal(米国のラグジュアリー販売企業)、Poshmark(新品または中古のアパレルやアクセサリーなどを販売する企業)、ThredUP(女性服や子供服などの古着販売企業)といった好調な企業と同様に、返品商品や開封済み商品の再販を始める企業の増加も見られました。

Wayfair(米国の家具のEC企業)やOverstock(余剰在庫の家具などを低価格で販売するEC企業)のような大手小売事業者や、BLINQのようなベンチャー企業は、使用には問題ない商品を返品の山から流用し、余剰在庫とともにオンラインで大幅な割引価格で販売しています。

NikeはResku(中古のNikeシューズなどを販売するECサイト)と提携し、返品された靴や開封済みの靴を再販売する取り組みを行っています。また、Nordstrom(米国の大型百貨店チェーン)は、自社の返品ルールによって生じた返品在庫をECサイトなどで再販売するプログラムをスタートしています。

今後10年の予測

小売事業者は返品をカスタマーエクスペリエンスの一部として受け入れ、返品をより環境に優しいものにするために、新しい方法を見つけました。しかし、これまでのソリューションの多くは、環境廃棄物や金銭的な影響といった部分に焦点が当てられたものでした。次の10年を考えると、購入時点から返品を防止する新しいソリューションに大きなビジネスチャンスが残されています。

AR技術は急速に進んでいます。Houzz(米国のインテリアデザインのプラットフォーム)やIKEAのような小売事業者は、自宅で商品を視覚化できるようにAR技術を活用し、消費者がより良いホームデコレーションを決定できるようにしています。

IKEAが展開するAR技術搭載の「IKEA Place」(編集部が追加)

アパレル業界では、TrueFit(米国のAIソリューション企業)やFit Analytics(アパレル向けの機械学習プラットフォームを提供する企業)のような企業が、データ分析を利用して、オンラインで買い物をする人が初回購入時に正しいサイズを見つけられるような環境を提供しています。今後10年間で、これらのテクノロジーは規模を拡大し、消費者がより良い情報に基づいた意思決定ができるよう支援するソリューションが増えるでしょう。

小売事業者は、顧客ロイヤルティを維持するために、返品サービスのルールを厳しくすることはできないと理解しています。現在は、消費者が返品する理由の根本的な原因を解決することに目を向け、それでも発生する返品はすべて顧客のロイヤルティを高める機会として受け入れるようになっています。

◇◇◇

さらに、ソリューションを通じてより良いサービスを提供するために、小売業界ではより多くのコラボレーションとパートナーシップが求められています。AmazonとKohl's、UPS、CVS(米国のドラックストアチェーン)やStaples(米国のオフィス小売企業)などの多くの小売事業者、NikeとReskuなどの事例を見れば、コラボレーションによって返品問題を解決するための適切なリソースと専門知識が集まることがわかります。小売業が激変を続ける中、業界全体の変化を促進するためには、パートナーシップが重要になってくるでしょう。

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この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア「Internet RETAILER」の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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Digital Commerce 360

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Eコマースの戦略に関し、デイリーニュース、解説記事、研究記事、電子商取引におけるグローバルリーダーをランク付けする分析レポートなどを発行している。

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