Digital Commerce 360[転載元] 2023/1/26 8:00

競合他社のオンライン価格に合わせる「価格保証」を行うことは、家電のように消費者自身が商品価格を比較しやすいカテゴリーでは効果的でしょう。

しかし、ある専門家は、「多くの大手ブランドがオンラインでの割引を制限している現在、価格保証の重要性は低くなっている」と指摘。価格戦略だけで売上向上を図るのではなく、手厚いやサービスや品揃えで差別化することも重要だと説明します。

また、価格戦略に向く商品と、価格競争に適さない商品を見極め、より多くの利益につなげる方法もあるといいます。価格保証のメリットとデメリット、それに追随するマーケティング戦略を紹介します。

記事のポイント
  • 主要なオンライン小売事業者100社のうち42社が、2022年のホリデーシーズンに何らかの価格保証を提供
  • 価格保証は、事務用品、おもちゃ、家庭用電化製品などのカテゴリーで最も顕著
  • 小売企業は、送料無料や返品などの他の特典で顧客を獲得する一方、消費者が頻繁に価格を比較する商品については、価格で勝負

顧客に安心感を与える“価格保証”

多くの人は10年前、 Eコマースの台頭によってBest Buy(編注:米国に本社を置く世界最大の家電量販店)は破滅すると予想していました。その理由は、多くの消費者が店舗に足を運び、テレビやコンピュータをチェックした後、オンラインでより安い価格で購入するようになったからです。

Best Buyはこの予測を2013年に覆し、前年のホリデーシーズンにテスト運用した、“Amazonやその他の大手オンライン小売事業者と同価格で販売する”という方針を固めました。

現在、Best Buyのビジネスは好調で、多くの小売事業者がその動きに追随しています。2022年のホリデーシーズンでは、『Digital Commerce 360』 がチェックした大手小売企業100社のうち42社が、Webサイトで何らかの形で価格保証を提供していました。

『Digital Commerce 360』発行「北米EC事業 トップ1000社データベース 2022年版」で40位のNewegg Commerce(電子機器とコンピュータ部品のEコマース専業事業者)は、2015年に価格保証制度を導入。複数の主要な競合他社の価格に合わせる価格保証のバッジがついた商品には、購入後14日間にわたる価格保証を提供しています。

Newegg Commerceプラットフォームエクスペリエンス担当ディレクターのヴィンセント・アギラール氏は次のように述べています。

競争の激しいEコマース市場において、Neweggはお客さまに安心してショッピングを楽しんでいただきたいと考えています。(アギラール氏)

また、価格とマーケティング戦略を専門とするコンサルティング会社Simon-Kucher & Partnersに属するシカ・ジェイン氏は、「価格保証のポイントは、消費者に『良い買い物ができた』と安心してもらうことです」と説明しています。

価格保証をすることは、消費者に「この店の商品価格が最も適正だ」という心理的な後押しをします。一方、これまでにどれだけの消費者が価格保証を要求したかがわかるデータはなく、その数は低いものと予想されます。ジェイン氏は「私は11年間、小売業の価格戦略を仕事にしてきましたが、正確な数字はデータとして出てきません」と話しています。

小売事業者にとって、価格保証は本当に良い戦略なのか?

ジェイン氏は「商品価格の高いインフレ率と差し迫った不況に対する消費者の不安から、2022年は多くの小売事業者が価格を一律にすることを提案した可能性がある」と指摘。経済的不安から、消費者は低価格商品やお値打ちな小売店に乗り換えることが多くなります。これに対抗するため、小売店は競合他社との価格の一致を保証するといった戦術で対応することが多いのです。

「価格保証は、あるカテゴリーや、特定の小売企業にとっては理にかなった戦略である」とジェイン氏は話しています。しかし、この戦略だけが消費者のロイヤルティを獲得する唯一の方法であるとはいえません。さらに、Eコマースの成長によって価格戦略が変化していることを考えると、やや時代遅れかもしれません。

ジェイン氏は「家電製品のように、消費者が多くの小売事業者から入手できるブランド品を求めているカテゴリーでは、価格保証を提供することが最も合理的である」と説明しています。

実際、『Digital Commerce 360』の編集部がチェックした家電量販店8社のうち5社が2022年のホリデーシーズンに価格保証を行ったのに対し、アパレルまたはアクセサリーを取り扱う小売店では、わずか40.6%しか価格保証を行っていませんでした。

アパレルやアクセサリーは商品の比較が難しいカテゴリーであることに加え、消費者が直接商品に触れ、感触を確かめ、試着したいと考えることが多い、というのも理由に考えられます。

2022年のホリデーシーズンにおける価格保証の割合(商品カテゴリー別)(出典:Digital Commerce 360)
2022年のホリデーシーズンにおける価格保証の割合(商品カテゴリー別)(出典:Digital Commerce 360)

また、チェーンの小売店やEコマース専業の事業者は、製造小売り事業者や通販事業者(ネット販売だけでなくカタログやテレビ通販も行う小売事業者を含む)よりも、競合他社と価格を合わせる傾向がありました。

2022年のホリデーシーズンに商品価格を競合他社と合わせていた事業者の割合(販売手法別。主要オンライン小売業者100社の調査結果)(出典:Digital Commerce 360)
2022年のホリデーシーズンに商品価格を競合他社と合わせていた事業者の割合(販売手法別。主要オンライン小売業者100社の調査結果)(出典:Digital Commerce 360)

ジェイン氏は「現在は10年前よりも価格保証の重要性は低下しているかもしれない」とも指摘。その理由は、有力なメーカーやブランドが、小売事業者が商品を設定価格以下に値引きすることを防ぐMAP(最低広告価格)政策を実施しているからです。

たとえば、最新のiPhoneを販売する場合、AppleはMAPポリシーに違反する小売事業者の販売を容認しないため、どこで買っても価格差はほとんどないはずです。

価格保証に頼らなくてもリピーターが育つ手法とは?

ジェイン氏は「多くの大手ブランドが割引を制限するなか、Best Buyのような小売事業者は、テレビやオーディオ機器など、商品の詳細を理解しにくく高価な商品を消費者に案内するなど、別の方法で競争している」と説明しています。

Best Buyの販売員は家電カテゴリーの知識がとても豊富で、消費者を丁寧に案内し、質問に答えてくれます。これはオンラインでは得られない体験であり、Best BuyとAmazonの差別化要因にもなっています。

消費者は「同じ値段なのだから、自分にとって最も良い買い物をしたい」と考えます。だからこそ消費者はBest Buyで買おうとするのです。(ジェイン氏)

ジェイン氏は「『誰かと話したい』『質問に答えて欲しい』というニーズがあるため、Best Buyや、店舗型小売事業者は廃業していないのです。この差別化に力を注いだのは、見事な戦略でした」と話しています。

この戦略を推し進めたBest Buyは、北米の小売事業者およびブランドのオンライン売上ランキングである 「北米EC事業 トップ1000社データベース 2022年版」で第6位にランクインしました。

行き届いたサービスや丁寧な対応が差別化要因に

ジェイン氏は「小売事業者が消費者をひきつけ、維持する方法は他にもたくさんある」と付け加えています。たとえば、品揃え、サービス、送料無料、返品処理の手厚い対応などです。

また、ジェイン氏は小売事業者に、戦略的に価格で競争すること推奨しています。消費者に価格を比較されやすい商品は低価格で提供し、価格を比較されにくい(=競争力の低い)商品でより多くの利益を上げることができるからです。

他社と差別化した販売戦略をとるためには、自社ではどの商品が価格競争に最適な商品であるかを理解することが重要です。たとえば食料品では、牛乳、卵、バナナで価格競争力を発揮するのが良いでしょう。(ジェイン氏)

この一方で、エキストラバージンオリーブオイルなど競争力の低い製品で利益を拡大することができると指摘しています。

ジェイン氏によると、小売事業者がやってはいけないことは、世界的な物価の上昇に合わせて商品を一律に値上げすることだそうです。「ロイヤルティの高い既存顧客を確実に失ってしまいます」とジェイン氏は警鐘を鳴らしています。

若い消費者から反響! Neweggはセール期間中も価格保証

ジェイン氏は「価格保証は、価格に敏感な消費者をターゲットとする小売事業者にとって効果的に作用します」と説明。たとえばEコマース専業のNewegg Commerceは、消費者が電子機器や部品の価格をオンラインで簡単に比較できるようにし、価格保証の利用を推進しています。

また、Newegg Commerceは、一般的に所得が低い若い消費者に対して、価格保証していることをアピールしています。

SimilarWeb(編注:Similarweb Ltd.〈本社イスラエル〉が提供するWebサイト分析ツール) によると、Newegg.com (編注:Newegg Commerceが運営するECサイト)の訪問者の 56.1% は 18 歳から 34 歳が占めています

これは、上位1000社の18 歳から 34 歳の訪問者が平均40.7%であることと比べると高い数値です。

リピート購入率を成功の指標に

Newegg Commerceのアギラール氏によると、価格競争の成功度を、顧客のリピート購入率やLTVを追跡することで評価しているといいます。たとえば、リピーター率は32%で、Eコマース業界の平均を上回っています。

ちなみに、EコマースプラットフォームのプロバイダーであるShopifyにおける、リピーターが占める売り上げの割合は、28.2%とのことです。

アギラール氏は「価格保証は顧客から高い評価をいただいている。今後も継続していきます」と述べています。しかし、ジェイン氏は、「リピーターの割合が高い理由を、価格保証のようにただ1つの要因に帰結させることは難しい」と指摘しています。

Newegg Commerceは価格保証がもたらす効果を十分に理解しており、毎年夏に開催するセール「FantasTech」と、ブラックフライデー前のプロモーションにも適用しています。

各プロモーションの期間中は、厳選した商品について最安値を保証しています。購入後、Neweggで同じ商品がより安く販売されていた場合、そのプロモーション期間が終了するまで、価格差分の金額を購入者に自動でお送りするので、安心してお買い物いただけます。(アギラール氏)

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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