若い消費者達はスマートフォンの小さな画面上で、好みのアプリや決済手段を使って素早くチェックアウトしたいと考えています。今回の記事では、MVMT(米国の時計メーカー)、Azazie(ブライダル関連の小売事業者)、True Religion(アパレルチェーン企業)が若年層に対してどのようにモバイルショッピング体験を最適化しているか解説します。

米国TOP1000社、モバイルトラフィックのシェア中央値は65.0%

ブライダル関連の小売事業者であるAzazieの顧客は70%がミレニアル世代。なかでも25歳から34歳の年齢層が「ドンピシャ」だと、最高マーケティング責任者のラヌ・コールマン氏は言います。

AzazieのWebトラフィックと売り上げは、モバイルデバイス経由が多くを占めます。2021年のWebトラフィックの73%はスマートフォン経由、売り上げの60%はスマートフォン経由です(モバイルWebとアプリの両方を含む)。コールマン氏はモバイル売上についてこう言います。

毎年、少しずつ伸びています。私たちの顧客層が24時間365日、スマートフォンを使い続けていることもその一因でしょう。顧客層が若くなるにつれて、毎年売り上げも増え続けていくでしょう。

若い消費者達は、スマートフォンでの買い物が好きで、スピードを求めているとコールマン氏は考えています。

若い人達はすぐに満足できるものを求めています。情報通な若年層は、全てのものをすぐ手にしたいと思っているのです。

ここ数年、他の多くの小売事業者達もモバイルトラフィックとモバイル経由の売上増加を経験しています。たとえば、「Adobe Analytics」の2021年11月・12月のデータによると、ホリデーシーズンにおけるオンライン販売の43%がスマートフォン経由で、2020年の40%から増加しています。

また、『Digital Commerce 360』発行「北米EC事業 トップ1000社データベース 2021年版」でも、若い購買層を顧客に持つ小売事業者ではモバイル経由のトラフィックと売り上げが増えているといったデータが示されています。北米に拠点を置くオンライン小売事業者トップ1000社の場合、モバイルからのECサイトへのトラフィックにおけるシェアの中央値は65.0%。2020年の62.1%、2019年の58.2%から上昇しました。

トップ1000社のうち、約230の小売事業者は若年層の顧客を多く抱えており、Webトラフィックの50%以上が35歳以下の消費者によるものです(トップ1000社に入る小売事業者によって数字は毎年異なります)。若年層をメインターゲットとする小売企業では、モバイルからのトラフィックがさらに多くなっています。小売事業者230社のうち、2021年におけるモバイルトラフィックのシェアの中央値は68.4%、2020年は65.3%、2019年は60.7%となっています。

EC売上トップ1000社全体と若年層顧客を持つトップ1000社のモバイルからのトラフィックの割合の中央値
EC売上トップ1000社全体と若年層顧客を持つトップ1000社のモバイルからのトラフィックの割合の中央値。特に若年層の顧客を抱える小売企業において、モバイルトラフィックは年々増加している(出典:Digital Commerce 360発行「北米EC事業 トップ1000社データベース 2021年版」*35歳以下の消費者からのWebアクセスが50%以上ある小売企業トップ1000社)

米国EC3社に学ぶモバイルに最適化された売り場作り

時計・アクセサリーブランドのMVMT(Movado Group Inc.傘下)、アパレルブランドの True Religion、Azazie という若年層向けオンラインショップの3社が、モバイルに焦点を当てたデザイン、決済ボタンの提供、独自の機能を持つアプリによって、若年層の消費者にどのようにアプローチしているのか紹介しましょう。

重要性が増すモバイルファーストのデザイン

MVMTのチーフ・ブランド・オフィサーであるスペンサー・スタンボー氏は、小売事業者達はモバイルショッピングの壁を取り除いてきたと言います。数年前まで、モバイルコマースは消費者の認知度アップやトラフィック獲得にフォーカスし、コンバージョンはデスクトップで行われるものでした。それが、MVMTにとっても市場全体にとっても、すべて変わったと話します。

2018年、MVMT.comのトラフィックはデスクトップが約75%、モバイルが25%でした。それからわずか3年後の2021年、全体のトラフィックのうちスマートフォンが85%を占めるようになっています。同時に、モバイル経由の売上やコンバージョンも増えています。スタンボー氏は言います。

最終的な購買はPCで行う人もまだ多いため、コンバージョン率はデスクトップの方が高い。しかし、ここ数年モバイルのコンバージョン率は急上昇しています。

トップ1000社では、2020年のモバイル経由売り上げのシェアの中央値は51.6%ですが、35歳以下の消費者からのトラフィックが50%以上の小売事業者に限ると、中央値は55.5%に跳ね上がっています。

MVMTの中心的な顧客層はミレニアル世代。この層の消費者達は、メールの送信、ソーシャルメディアへの参加、ショッピングなど、スマートフォンを生活のなかに取り入れています。MVMTは、ターゲット層にアプローチするためには、モバイル体験に投資する必要があると考えました

MVMTは消費者がデスクトップやスマートフォンなど、どんなデバイスで閲覧していても、ブラウザの幅に合わせて自動的にフォーマットされるレスポンシブWebデザインでECサイトを構築していました。しかし2016年、モバイル専用のデザインテンプレートでECサイトを構築。スマートフォンの画面向けのデザインを最優先に考え、次にデスクトップでどのように拡大・縮小するかを考えていると言います。

新しいブログページを開発するときや、商品ページを更新するときは、モックアップを作成します。ワイヤーフレームに伝えたい情報をすべて盛り込み、モバイルファーストで設計し、それをデスクトップに展開する方法を考えています。ほとんどの場合、モバイルファーストです。

2022年1月に『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1088人のオンライン通販利用者を対象に行った調査によると、消費者の3分の1はスマートフォンでの購入について少なくとも1つは問題があると回答しており、モバイルでのショッピング体験は完璧とは言えません。

時計・アクセサリーブランドのMVMTが運営するECサイト
スマートフォンを使ってネットショッピングをする際の問題について。モバイルショッピングの最大の障壁は、読み込みの遅さとデザインの悪さ(出典:2022年1月に『Digital Commerce 360』とBizrate Insightsが1088人のオンライン通販利用者を対象に行った調査)

MVMTは常にモバイルデザインの改善を繰り返し行っているとスタンボー氏は説明。1~2年ごとに特定の機能を再テストし、消費者の共感を得られるかどうかを確認します。たとえば、Instagramの広告からクリックした消費者向けの商品ランディングページでは、「カートに入れる」ボタンの位置を何度か変更しました。

当初、ページの上部付近、商品詳細ページの下に「カートに入れる」ボタンはありました。しかし、消費者がページ全体をスクロールすると、商品をカートに追加するためには上にスクロールして戻る必要がありました。MVMTは、消費者がスクロールしても「カートに入れる」ボタンが常にページ下に表示されるように変更。すると、「カートに入れる」ボタンは常に表示されているため、消費者はそのボタンに気づかず、何度もページをスクロールしてしまうことに気づきました。そこで、MVMTでは、ボタンをページの上部付近と下部に設置するようにしました

時計・アクセサリーブランドのMVMTが運営するECサイト
「カートに入れる」ボタンをページの上部付近と下部に設置している

MVMTでは通常、一度に3つのテストを実施。改善を通じてコンバージョンが5〜25%増加することを期待しているとスタンボー氏は言います。

50%の増加は見込めませんが、単純な変更でも、約25%改善したケースもあります。たとえば、ある眼鏡商品のメイン画像を正面からではなく、斜め横から見た画像に変更したところ、コンバージョン率が24%上昇しました。

一般的に、MVMTのモバイルデザインは、消費者が迅速に購入を決定できるような「合理化された」ショッパーエクスペリエンスをめざしているそうです。

モバイルサイトの目標は、購入に必要なすべての情報を簡単に取得し、できるだけ合理的かつ迅速に購入できるようにすることです。

たとえばMVMTは、消費者がスクロールする前に「今すぐ購入する」といったコール・トゥ・アクションをカテゴリページ用意。横長ではなく縦長の画像など、モバイルでうまく表示される画像を選んでいます。

時計・アクセサリーブランドのMVMTが運営するECサイト
カテゴリページからカートに商品を入れることができるようにしている

また、モバイルサイトでは、「メンズウォッチ」「レディースジュエリー」など、トップナビゲーションの商品カテゴリー項目をページ上部に円形で表示しています。これは、Instagramの「ストーリー」機能に似たもので、若い消費者達に親しみやすいデザインにしているそうです。MVMTは、若年層がInstagramを多用していることを知っており、自分たちもソーシャルメディア時代の一部であることを彼らに伝えたいと考えています。

「アットホームな雰囲気を醸し出したい」とスタンボー氏は言います。

時計・アクセサリーブランドのMVMTが運営するECサイト
デスクトップでは商品ナビゲーションはテキスト表示をしていますが、モバイルでのナビゲーションは、Instagramの「ストーリー」機能のように円形にしている

さらに、PayPal、Klarna、Apple Payなど、できるだけ多くの決済事業者を提供することで、より簡単に利用できるようにしています。また、消費者が使用しているブラウザの種類を検知し、iPhoneであればApple Pay、AndroidであればGoogle Payのボタンを最初に表示します。

時計・アクセサリーブランドのMVMTが運営するECサイト
Google Payのボタンを最初に表示している

モバイルを利用する若年層に向けた決済手段

Klarnaのような消費者に「今、支払う」「後で払う」といった支払い方法は人気が急上昇しており、モバイルユーザーと若年層に人気があります。『Digital Commerce 360』発行の「北米EC事業 トップ1000社」では、29.2%の小売事業者が「今、支払う」「後で払う」といったサービスを提供しています。

モバイルに特化した小売事業者では、後払い決済の普及率が急上昇しています。モバイルからの売り上げが50%以上の小売事業者のうち、60.7%が後払いサービスを提供しています。また、35歳以下の消費者からのトラフィックが50%以上の場合、31.0%が後払いサービスを提供しています。

アパレルブランドTrue Religionは、Z世代の消費者をより多く獲得することをめざしており、デジタル部門担当副社長であるアンジェラ・クラーク氏は「後払い決済は魅力的なサービスだ」と言います。また、若い消費者達は、必ずしもクレジットカードを使用しないため、149ドルから200ドルの商品の分割払いは魅力的な選択肢となっているそうです。

True Religionの顧客は、モバイルにも精通しています。クラーク氏によると、TrueReligion.comの売り上げの約80%、トラフィックの約90%はモバイルデバイスからです。

True Religionは2022年第1四半期、チェックアウトのオプションとして「今、支払う」「後で払う」という決済サービス「Klarna」を追加しました。

スウェーデンで後払いサービスを提供するKlarnaは、小売店ごとにオーダーメイドの関係性を構築。消費者に「今払う」「後で払う」といった支払い方法を展開し、サービス利用のメリットを提供
Klarnaについて(画像は第21回 産業構造審議会 商務流通情報分科会 割賦販売小委員会の資料から)

True ReligionはすでにAfterPay(オーストラリアの金融企業で、「今、支払う」「後で払う」という決済サービスを提供)を導入しており、支払いを数回に分け、数か月にわたって支払うことができるという点でKlarnaと同様の機能を備えています。

なぜKlarnaを導入したのか? Afterpayがミレニアル世代以上を対象にしている一方、KlarnaはAfterpayの5倍のユーザーを保有、その多くがZ世代だからだとクラーク氏は言います。

アプリに価値を与える方法

True Religionがモバイルをメインで使う若年層にアプローチするために行うもう1つの計画は、2022年中のショッピングアプリの立ち上げです。約5年前にアプリを公開していますが、主にモバイルサイトのミラーアプリであり、最終的には成功には至らなかったとクラーク氏は話しています。

今回True Religionは、アプリ限定のユニークな機能や限定商品をアプリに追加し、消費者がアプリをダウンロードして利用する理由を作ろうと考えているそうです。

アプリの利点は、カッコよくて楽しいことが実現できることです。

True Religionはたとえば、左右にスワイプして商品に「いいね!」したり、InstagramのストーリーやTikTokに似た動画機能を追加するなど、消費者がソーシャルメディアのアプリで使い慣れている機能を統合する計画です。またアプリでは、限定商品、一部の商品の先行発売、より良いロイヤルティプログラムを提供する予定です。クラーク氏はこう話します。

これらの機能を導入することで、消費者にとって魅力的なアプリとなり、ひいては高いコンバージョン率と高いLTV(顧客生涯価値)をもたらすことを期待しています。

消費者がアプリをダウンロードするインセンティブを用意する必要があるため、この方法は有効だとMVMTのスタンボー氏も言います。

スマートフォンのデータ容量を使うアプリをダウンロードしてもらうためには、よほど大きな小売事業者でなければできません。もしくは、多くの付加価値をアプリに加える必要があります。

スタンボー氏は、一定の小売事業者にとっては、アプリ開発の価値があると認めつつ、MVMTにとっては、現時点では意味がないと考えています。なぜなら、MVMTは大量の商品を扱っておらず、同ブランドが取り扱っている時計は、量販店やアパレルブランドのように購入頻度が高いわけではないからです。

規模が大きくなれば、アプリは大きな意味と価値を持つようになります。

ブライダル関連のAzazieの場合、消費者は通常1着のドレスを買うだけです。しかし、花嫁がよりパーソナライズされたショッピング体験をし、結婚式でのフィードバックを得るための方法として、2016年にアプリをローンチしました。アプリ内で消費者は、Azazieのすべてのドレスを閲覧し、お気に入りのリストを作成し、家族や友人とドレスを共有することができます。またアプリ内では、花嫁の友人がコメントを残すことが可能です。Azazieのコールマン氏はこう言います。

ファストファッションのアプリは、ロイヤリティや売上促進を中心に設計されていますが、私たちは、アプリとデバイスを活用して、結婚式全体を通して、コミュニティ体験を作ることを重視しています

アプリ測定会社App Annieによると、米国では2021年に消費者が小売アプリに費やした時間は29億7000万時間で、2020年の26億5000万時間、2019年の20億2000万時間から12%増加しています。

アプリが自社のビジネスに適していると判断した小売事業者は、コストを検討する必要があります。True Religionでは、アプリによって最初の1年間で600万ドルの売り上げが見込まれ、そのうち400万ドルは純増になるとクラーク氏は予想しています。

ただ、アプリの登場によって、モバイルWebサイトなど別のチャネルで購入した消費者との間で、約200万ドルの売上カニバリゼーション(共食い)が起こると考えています。しかし、新規顧客の獲得と新しい魅力的なプラットフォームで既存顧客の購入頻度が高まり、最終的には売り上げがアップすることを予想しています。これらは保守的な数字だそうです。

True Religionは2021年12月にアプリの構築を社内で開始しましたが、遅くとも2022年6月までにローンチすることを目標としています。デザインは計画済みで、マーケティング計画も進行中です。次は機能の構築だと、クラーク氏は話します。

eコマースチームから3人、ITチームから3人と、少なくとも6人の社員がアプリの開発に取り組んでいます。これらの従業員の時間や給与を含めない場合でも、アプリの構築にはさらに20万ドルのコストがかかるそうです。

決して安い買い物ではありません。しかし、長期的なROI(投資収益率)は高く、その価値は十分にあると思います。

金融サービス会社Brokers InternationalのCEO、マーク・ウィリアム氏は、ミレニアル世代や若い世代のスマートフォンの使い方から、彼らはよりモバイルに重点を置いていると言います。

この世代は、電話で話すのではなく、チャットやソーシャルメディアを通じた、オンラインでのコミュニケーションに慣れています。つまり、小売事業者は、デザイン、マーケティング、支払い、プロモーション、顧客サービスなど、あらゆるサービスをモバイルに最適化して提供する必要があるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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世界最大級のネット通販業界の専門誌『Digital Commerce 360』(旧『Internet Retailer』)は、雑誌のほか、Web媒体、メールマガジンなどを運営。Vertical Web Media社が運営を手がけている。

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