森岡 健太郎 2022/8/17 8:00

Amazonの2021年における広告売上は310億ドル(約3兆4000億円)となり、YouTubeの広告費288億ドル(約3兆1500億円)を超える水準で、世界のインターネット広告市場では1位Google、2位メタ(Facebook)に次いで3位の規模になっています(参考:世界の広告費について)。

今後の広告市場に大きな影響を及ぼすであろうAmazon広告の強さとは、いったいどのような点なのでしょうか。

YouTube超え、「Amazon Prime」に迫る広告売上

Amazonの広告売上は、「Amazon Prime(アマゾンプライム)」の月額料金を中心としたサブスクリプション売上高の317億ドルに迫る勢いです。

アマゾン(Amazon)の売上高の内訳
Amazonの売上高の内訳(2021年)。カッコ内の数値は全体売上高に占める割合(画像はネットショップ担当者フォーラム編集部が作成)

Googleの売上高は90%以上が広告ですが、Amazonの2021年通期決では、全売上高に占める広告売上高の割合は7%。しかし、豊富な購買データとリーチ数を持っているAmazonが広告で収益を増やしていくことは必然で、現状の売上比率はまだ序盤に過ぎないのかもしれません。

商品検索はGoogleよりAmazon

検索エンジンといえば「Google」が一強に近い状態ですが、そのシェアの一部が「Amazon」に移行しています。

ニールセン デジタルの調査によると、18歳~34歳が商品を検討する際に利用するサービスの1位はAmazonで46%、次いでGoogleが39%でした。

Amazonでは日々膨大な量の検索が行われ、それに伴って広告収入を伸ばしています。Amazon広告は検索結果に表示される「スポンサープロダクト」がメインとなっており、Amazonでの検索数が増えるほど、広告収入が増える仕組みなのです。

それだけではなく、Amazonはここ数年で広告枠を増やし広告メニューを拡充。2019年は5種類だった広告が、現在は5倍の25種類に増加。種類だけでなく広告枠の数自体も増加しています。

検索結果ページが広告枠になっているだけではありません。Amazonがレコメンドしている「関連商品」「星4つ以上の商品」なども多くが広告枠に置き換わっており、広告ではない枠の方が少ない状況です。

Amazon スポンサー広告
Amazonで表示される「スポンサープロダクト」(「Amazon」サイトからキャプチャ)

Amazon広告の3つの強さ

広告枠を増やしても出稿する広告主が増えないと広告収入は伸びません。その点において、AmazonはECプラットフォームならでは強さを発揮しています。

購入に直結する広告配信

商品検索でAmazonが使用される際、ユーザーの多くが購入前提でサイトを訪れています。マーケティングファネルで表すと、Google検索は「比較・検討」段階で使用されるのに対し、Amazonは最下層に位置する「購入」に直結しているのです。

Amazon Google マーケティングファネルでのそれぞれの位置
マーケティングファネルにおけるGoogleとAmazonのポジション

そのため、Amazon広告は圧倒的にコンバージョン率が高く、ウェブFX(webFX)によると、Amazon広告のコンバージョン率はGoogle広告の2倍以上といいます。

広告主はリターンが見込めるため、広告に投資しやすくなっています。売り上げの5%~10%を広告費に充てる広告主が多く、Amazonの広告売上は、流通総額の増加に比例して増加するのです。

広告経由の売り上げがSEO順位に影響

コンバージョン率が高いだけでなく、Amazon広告を利用するメリットは他にもあります。Amazonでは広告経由の売り上げが増えるほど、「オーガニック検索(SEO)」の順位に影響を与えるアルゴリズムになっています

そのため、販売初期に広告費を多くかけたとしても、売り上げが増えていくと、広告出稿しなくても得られる売り上げが増加。広告出稿を抑えられるようになっている分、利益率も改善していくサイクルが生まれていきます。

Amazonでベストセラーを取っている商品の多くは、最終的に広告費を抑えられているケースが多いと言えます。

Googleでは広告とオーガニック検索(SEO)は別のアルゴリズムのため関連性がありません。しかし、AmazonはECプラットフォームのため、広告とオーガニック検索を連動させるアルゴリズムになっています。このアルゴリズムによって広告からの収益と手数料収益のバランスを取り、収益を最大化させることができるのです。

世界最大の購買データを活用した広告配信

Amazonの広告収入が増加した最大の要因の1つは、金融サービス、自動車メーカーなどAmazonで商品を販売していない広告主が急増したことです。

Amazon広告は、Amazon内の行動・購買データを活用し、Amazon内だけでなくAmazon外のネットワークにバナー広告や動画広告を配信できます。たとえば、Amazonで車関連の商品を閲覧、購入している消費者に向けて自動車メーカーが広告を配信する、ペット関連の商品を頻繁に購入している消費者にペット保険の加入を促す広告を配信することも可能です。

近年、AppleやGoogleがプライバシーポリシーを変更したことでユーザーの行動追跡が困難になっています。そんななか、Amazonが持つ豊富な購買データを活用した広告配信は、広告主にとって魅力的なモノになっているのです。

Amazon広告の野望とは?

テレビ広告の予算を狙う

AmazonのサービスはECだけにとどまりません。2011年に開始した「Amazon Prime Video(アマゾンプライムビデオ)」は、全世界で2億人以上のユーザーが利用する巨大ストリーミングメディアを保有しています。

今では「IMDb TV(Amazon傘下の無料の映画・テレビストリーミングサービス)」「Twitch(ゲーム動画配信サービス)」も保有しており、動画プラットフォームとしてはかなりのリーチ数を誇っています。

それをAmazonの購買データと掛け合わせることで、テレビ広告の予算をインターネット広告に移行させる戦略も動き出しています。広告単価が高くなっても、マス広告で購買データとの関連性(広告を見た人がその商品を購入したかがわかる)が見られるなら、広告主にとっては非常に貴重なものになるからです。

アメリカでは2022年、「『アマゾンプライムビデオ』のスポーツ独占中継で、Amazonが広告パッケージを売り込んでいる」という情報もあり、Amazonがテレビ広告の予算を奪取する未来もそう遠くはなさそうです。

実店舗での広告は未知数

Amazonの実店舗への挑戦は模索中ですが、将来的には実店舗での広告展開も視野に入れた動きを加速させています。

2017年に買収したホールフーズ・マーケットや「Amazonフレッシュ」の店舗など、Amazonが保有する実店舗におけるデジタルサイネージの広告プレースメントの販売を計画しています。

広告再生数、推定インプレッション数、地域別のインプレッションなどのデータを広告主に提供できるため、Amazonは物理的な広告においてもデータ提供を武器にしています。

Amazonが独自開発した「Just Walk Out」という仮想カートを用いたレジなし技術は、顧客が専用のアプリをダウロードすることで利用でき、そのアプリで店舗内の顧客の行動を追跡できます。

Amazon以外の小売事業者はまだそこまでデータを活用できておらず、その点での優位性は高いといえます。一方で、まだ店舗数が少ないAmazonは、広告を大々的に展開していくには時間がかかるでしょう。

ただ、Facebook、GoogleがCookie規制で苦しむなか、Amazonの逆襲は始まったばかり。これからのAmazonの動向はインターネット広告業界に大きな影響を与えるでしょう。

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